学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説

学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説
学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説
  • そもそも学習指導要領って何?
  • 学習指導要領はどうやって決められるの?
  • 学習指導要領って何のためにあるの?
こういった疑問に答えます。
学習指導要領をもとに教科書が作成されるという話はよく聞きますが、そもそも学習指導要領が「なんだかよくわからない」という方は多いかと思います。

そこでこの記事では、学習指導要領はどうやって作られるのか?国や行政、法との関わり、作られる目的や目標などの全体像について、新しい学習指導要領(第8回全面改訂版)を使用して解説していきます。 学習指導要領では難しい言い回しが多いのですが、なるべくシンプルにわかりやすくお伝えできればと思います。

ぜひ、特に保護者の方々にはこの記事を読んで頂いて、日本の学校教育はこういった仕組みで出来ているということを知っていただき、子育ての参考にして頂けたらと思います。


【学習指導要領とは?】学校で学ぶ本当の理由は?

1.学習指導要領とは?

学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説

学習指導要領とは何でしょうか?
学習指導要領とは、全国のどの地域で教育を受けても一定の水準の教育を受けられるようにするために、文部科学省が定めているカリキュラムの基準
子供たちの教科書や時間割は、学習指導要領を基に作られています。 しかしこれだけでは、実態が掴みにくいので、さらに各側面から解説していきます。




2.改訂までの流れ

学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説

学習指導要領改訂の大まかな流れを、第8回全面改訂時を例に解説します。

学習指導要領
の対象
日付 実行内容
全て 2014年11月20日 ①文部科学大臣から中央教育審議会に諮問する
②中央教育審議会の「教育課程部会」で議論する
2016年8月26日 ③審議のまとめを公表する
2016年9月9日~10月7日 ④公表されたまとめに対しパブリックコメントの実施
2016年12月21日 ⑤中央教育審議会から「答申」が提出される
幼稚園
小学校
中学校
2017年2月14日 ⑥学習指導要領改定案が公表される
2017年2月14日~3月15日 ⑦公表された改定案に対しパブリックコメントの実施
2017年3月 ⑧文部科学大臣が公示する(文部科学省告示)
高等学校 2018年2月14日 ⑥学習指導要領改定案が公表される
2018年2月14日~3月15日 ⑦公表された改定案に対しパブリックコメントの実施
2018年3月 ⑧文部科学大臣が公示する(文部科学省告示

こうして見ていくと、諮問から全ての告示が終わるまでに約4年かかるんですね。
次に各手続きについて解説します。


①文部科学大臣から中央教育審議会に諮問する

まず、文部科学大臣が中央教育審議会に「新しい学習指導要領を作って欲しい」と諮問します。
※諮問とは、意見を尋ね求めることです。
中央教育審議会とは、略して「中教審」と言われますが、政策を審議して提言する機関です。
20名以内で構成されていまして、いわゆる有識者と言われる方達が任命されています。


②中央教育審議会の「教育課程部会」で議論する

中央教育審議会が受けた諮問は、中央教育審議会の中の初等中等教育分科会の中の「教育課程部会」で議論します。


③審議のまとめを公表する



④公表されたまとめに対しパブリックコメントの実施

パブリックコメントというのは意見公募手続のことで、あらかじめその案を公表し、広く国民から意見や情報を募集する手続きです。
学習指導要領は告示される前に、実は国民に意見を聞いているということです。
意見はインターネツトで「e-GovのWebサイト」から行えます。


⑤中央教育審議会から「答申」が提出される

中央教育審議会より、それまでの経緯や結論をまとめたものを回答として意見を述べます。 答申とは、上司の問いに対して意見を申し述べることです。 ここでは、中央教育審議会が文部科学大臣に意見を述べるということです。


⑥学習指導要領改定案が公表される



⑦公表された改定案に対しパブリックコメントの実施



⑧文部科学大臣が公示する(文部科学省告示)

文部科学大臣の公示や、文部科学省の告示などにより、学習指導要領は改訂となります。
公示と告示はほとんど同じようなものですが、厳密に言うと下記の違いがあります。

公示:広く一般に示すこと。知らせること。(単に知らせる)
告示:広く一般に行う通知。(文書などを通して通知する)




3.法との関係

学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説


法体系と学習指導要領の関係

法体系と学習指導要領の関係は下記の表のようになります。

法令 制定権者 内容 学習指導要領での記載
憲法 国民 国家の組織、構成、作用の基本原則を規定した法 日本国憲法(26条)
法律 国会 国会の可決を経て成立・公布されるもの 教育基本法(全条文)
学校教育法(抜粋)
政令
(施行令)
内閣 内閣が制定する命令
省令
(施行規則)
各省大臣 各省大臣が制定する命令 学校教育法施行規則(抜粋)
※教育課程はここで記載
告示 行政機関 広く一般に行う通知。(文書などを通して通知する) 告示(告示の年月日)
通達・通知 各省大臣、委員会、庁の長官など

日本国憲法(条文

日本国憲法26条には、義務教育について定められてます。
26条では「すべて国民は、法律の定めるところにより普通教育を受けさせる義務を負ふ。」と述べられており、ここで述べてる法律とは教育基本法学校教育法を指しています。
※小学校、中学校、高等学校の学習指導要領では、日本国憲法26条を記載

教育基本法(条文

教育基本法は、教育の基本について定める法律です。
学校教育だけでなく、家庭教育、社会教育、生涯教育、教育行政など、教育について幅広く定められています。 条文は18条までと少なく、それぞれの条文も短いです。
※小学校、中学校、高等学校の学習指導要領では、全条文を記載

学校教育法(条文

学校教育法は、学校教育制度の大枠を定めている法律です。
義務教育についてや、小学校から大学までの諸々が具体的に定められています。 修学年数が、小学校6年、中学校3年、高校が年、大学4年、と決まっているのもこの法律で定められているからです。
※小学校学習指導要領では、義務教育、小学校、特別支援教育の章より抜粋
※中学校学習指導要領では、義務教育、小学校、中学校、特別支援教育の章より抜粋
※高等学校学習指導要領では、小学校、高等学校、特別支援教育の章より抜粋

学校教育法施行規則(条文

学校教育法施行規則は、学校教育の具体的なルールを定めている省令です。 教育課程、校長や教頭の資格、学校の設備、など、かなり具体的なルールが記載されています。
※小学校学習指導要領では、第四章小学校、第八章特別支援教育、附則の章より抜粋
※中学校学習指導要領では、第四章小学校、第五章中学校、第八章特別支援教育、附則の章より抜粋
※高等学校学習指導要領では、第四章小学校、第六章高等学校、第八章特別支援教育、附則の章より抜粋



学習指導要領は「告示」

学習指導要領は「告示」であり、文部科学大臣が「公示」します。
告示は、広く一般に行う通知です(文書などを通して通知する)。
公示は、広く一般に示す行為です。




4.学習指導要領の目的

学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説

小学校、中学校、高等学校の学習指導要領には、本文に入る前の「前文」に、学習指導要領を定めることの目的や願いが記載されています。
「前文」では、教育の目的、教育の目標、教育課程、学習指導要領の順で記載されています。
ここでは、記載内容をかみ砕いてなるべく簡単に解説致します。


教育の「目的」

目的とは、目指すべき到達点。 では、教育の目指すべき到達点とはなんでしょう?
前文には、教育基本法第1条に定める内容と同じ「教育の目的は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として、必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期す」 と記載されています。これを簡単にまとめると下記となります。
人格の完成を目指す


教育の「目標」

目標は、目的を成し遂げようするために設けた、具体的な手段(通り道)。
では教育は、どのような具体的手段を通して目的を成し遂げるのでしょう?
前文には、教育基本法第2条に定める内容5項目を改めて記載しています。 これを簡単にまとめると下記となります。
1.知徳体を養う
2.個人の能力を伸ばし、個人をより良くする。
3.個人と社会とうまく接続し、社会をより良くする。
4.個人と自然環境をうまく接続し、自然環境をより良くする。
5.個人と人類をうまく接続し、人類をより良くする。


教育の目的や目標を達成するための「教育課程」

教育の「目的」と「目標」についての記載の次に、「教育課程」について述べられています。
教育課程については学校教育法施行規則の第五十条から第五十八条で規定されています。 しかし、学習指導要領の前文では抜粋はしてなくて、「教育課程」がどんなものなのかについて述べられています。 これも難しい言葉で言い表されているので、簡単にまとめると下記となります。
教育過程とは、教育の目的や目標を達成するために、学校での教育内容を組織的にそして計画的に組み立てたもの。

そして、これからの時代に求められる教育について、次のように述べています。
よりよい社会を創るという理念を学校と社会が共有し、
・どのように学び
・どのような資質・能力を身に付けるか
を「教育課程」で明確にする。


教育過程を明確にするための「学習指導要領」

「前文」の最後には、「学習指導要領」について述べられています。
教育の目的から教育課程までで述べられた理念の実現の為に定められたものが、学習指導要領という旨が記載されています。 また定めかたは、教育課程の基準を根本的な方針として定めています。
簡単にまとめると下記となります。
学習指導要領は「教育過程」を明確にするために存在する。

ここまでの流れをまとめますと、
教育には「目的」があって、
 ↓
目的達成のために「目標」があって、
 ↓
目標の実現のために、「教育課程」があって、
 ↓
教育課程を実行に移すために「学習指導要領」がある

こうやって整理すると分かりやすくなります。 次に、学習指導要領の役割について述べられています。 学習指導要領の役割は下記となります。
・学校の教育水準を全国的に一定に保つ。
・各学校は創意工夫しながら学習指導要領を踏まえた教育活動の充実を図る。
学習指導要領は、日本の子どもたちが、通う学校や使う教科書が違っても、
「これだけは知っておいて欲しい」
「これだけの力をつけて欲しい」
という子どもたちが学習する内容についての指導のベースです。 学校や先生には、学習指導要領をベースに地域や子どもの状況に合わせて、内容を加えて教えたり、教材を工夫して教えたりなどの創意工夫をしていって欲しいという願いが込められています。

そして、前文の最後には、児童や生徒が学ぶことの意義を実感できる環境を整え、一人一人の資質・能力を伸ばせるようにしていくことは、学校関係者、家庭や地域の人々など児童や学校に関わる全ての大人に期待される役割と締めくくられています。

子どもの資質や能力は、学校関係者だけでなく、周りの大人みんなで伸ばして行きましょうということですね。




5.教材との関係

学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説


学習指導要領改定により教科書が変わる

学習指導要領が改定されると、それに準じて教科書の改訂が進められます。 教科書の制作は、大手出版社が行っています。 学習指導要領改訂のテーマに沿って、子どもたちが力を育んでいくのにふさわしい教材となるよう教科書に改訂が加えられます。 制作された教科書は、文部科学省の諮問機関などで審査を受け、合格することで生徒が手にできる教科書が完成となります。

ただ、前述の通り教師や学校は、学習指導要領を踏まえた教育活動をするに当たっては、創意工夫をしてもいいということになってます。 ということは、必ずしも教科書通りに授業を進めなくてはならない訳ではありません。
教科書は参考程度にしか使わない私立の学校などもあります。


学習指導要領改定により学習参考書が変わる

教科書が改訂されると、それに合わせて多くの学習参考書も改訂されます。 教科書が発表されればすぐ実装されるので、教科書が発表されると学習参考書の出版社などは急ピッチで準備をして行くことになります。




6.改訂の歴史

学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説
学習指導要領は、戦後の1947年に初めて刊行され、その後、時代の変化に合わせておよそ10年に1度のタイミングで改訂が行われてきました。 学習指導要領の変遷については、「学習指導要領の歴史!改訂による教育の移り変わりを時代背景とともに解説!」で詳しく解説しています。


学習指導要領の変遷については、「学習指導要領の歴史!改訂による教育の移り変わりを時代背景とともに解説!」で詳しく解説しています。



7.まとめ

学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説
学習指導要領というものが、どういうものかについて解説しました。
学習指導要領は、教育基本法や学校教育法に規定された「学校教育の目的」を実現するため基準であり、小中高校で教える内容や教科の目標を示したものということがわかりました。また、基準でありながらも、児童、生徒の実態に合わせて、学校や教師は創意工夫をしていいということがわかりました。
また、改訂には4年もの年月をかけて検討され、国民の意見をも聞いて改訂されていくことがわかりました。
教育の目的や目標、そして教育課程を明確にするために、法に則って定められた学習指導要領には、これからの時代に必要な資質や能力を身につける為に必要なものがこめられています。 私たち大人はそのメッセージをしっかりと受け取り、子どもたちに伝えて行くことが、子どもに未来を生きる力を育むことに繋がっていくのだと思います。

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