こういった疑問に答えます。
日本の学校教育の基準は「学習指導要領」です。日本の教育の歴史は、学習指導要領の歴史と言ってもいいです。この学習指導要領について理解しようとしても、ちょっと調べただけでは全体的な流れがつかめません。
僕もずっと「ゆとり教育」は、平成10年頃に教育を受けてた人のことだと誤解していました。
そこでこの記事では、学習指導要領の歴史について、その改訂内容と実施した後に起こった出来事などの時代背景を織り込みながら、今までの教育の歴史をわかりやすく解説します。
この記事を読めば、日本の教育が紆余曲折しながら現在につながってきている理由が理解できます。
学習指導要領とは何かについては、「学習指導要領とは何のためにあるのか?国と学校と教育の関係についてわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
本記事の内容(目次)
告示ではなく「試案」。「手引き」のようなもの
現場の先生の創意工夫に任せる
小学校 | 国語、算数、理科、社会、音楽、図画工作、体育、家庭、自由研究 |
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中学校 |
【必修科目】 【選択科目】 |
高等学校 |
【必修教科】 【選択教科】 |
最初の学習指導要領は,短期間で作成されたもので不十分だった為、その点を整備する形で改訂が進められた。
この改訂から「教育課程」という用語が用いられる
小学校 |
【学習の基礎となる教科】 【社会や自然についての問題解決を図る教科】 【主として創造的な表現活動を行う教科】 【健康の保持増進を図る教科】 |
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中学校 |
【必修教科】 【選択教科】 |
高等学校 |
国語、数学、理科、社会、保険体育、芸能、家庭、外国語、職業、工業、商業、水産、家庭技芸、その他特に必要な教科 |
「告示」となり法的拘束力を持つ
基礎学力の充実、科学技術教育の向上等(詰め込み教育のはじまり)
道徳の時間の新設
小学校 |
【教科】 【教科以外】 |
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中学校 |
【必修教科】 【選択教科】 【教科以外】 |
高等学校 |
【教科】 【教科以外】 |
1961年(昭和36年)4月 | 実施(小学校) |
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1962年(昭和37年) | 実施(中学校) |
1963年(昭和38年) | 実施(高等学校) |
教育内容のさらなる向上・増加(最も学習量が多くなった)
小学校 |
【教科】 【教科以外】 |
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中学校 |
【必修教科】 【選択教科】 【教科以外】 |
高等学校 |
【教科】 【教科以外】 |
1971年(昭和46年)4月 | 実施(小学校) |
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1972年(昭和47年) | 実施(中学校) |
1973年(昭和48年) | 実施(高等学校) |
加熱した受験競争、落ちこぼれの続出の反省から、授業時間数が削減され、教師の自発的な創意工夫を加えた学習指導(ゆとりの時間)が導入されました。
教育内容を精選
各教科の標準授業時数を削減
小学校 |
【教科】 【教科以外】 |
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中学校 |
【必修教科】 【選択教科】 【教科以外】 |
高等学校 |
【普通教育】 【専門教育】 【教科以外】 |
1980年(昭和55年)4月 | 実施(小学校) |
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1981年(昭和56年) | 実施(中学校) |
1982年(昭和57年) | 実施(高等学校) |
科学技術の進歩と経済の発展は,物質的な豊かさを生むとともに,情報化,国際化,価値観の多様化,核家族化,高齢化など,社会の各方面に大きな変化をもたらし、今後ますます拡大し,加速化することが予想されました。
このような社会の変化に対応する観点から教育内容の見直しが行われました。
小学校に生活科を設定
学校週5日制の導入
小学校 |
【教科】 【教科以外】 |
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中学校 |
【必修教科】 【選択教科】 【教科以外】 |
高等学校 |
【普通教育】 【専門教育】 【教科以外】 |
1992年(平成4年)4月 | 実施(小学校) |
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1993年(平成5年) | 実施(中学校) |
1994年(平成6年) | 実施(高等学校) |
このときの改定では「新しい学力観」が提唱されました。子どもの学力とは、知識の量ではなく、「自ら学び、自ら考える」力だというものです。そして、「社会の変化に主体的に対応できる」子どもを育てようという方針を打ち出しました。
具体的には、授業態度や問題関心のあり方をみる「観点別評価」や、個人個人の到達度を評価する「絶対評価」が取り入れられることになりました。
また、学校でも週休二日にしたらいいのでは、という意見が強まり、1992年から月一回で「学校週五日制」を導入しました。
そして1990年代はバブルが崩壊し、世の中は大不況の時代に突入しました。これまでに考えられなかったような大企業の倒産やリストラによる大量解雇は、終身雇用制や年功序列型賃金制度などの日本型経営を完全に崩壊させました。学校現場では「学級崩壊」や非行歴のない子どもの犯罪も大きな社会問題となりました。
ゆとりの中で「生きる力」をはぐくむことを重視し、完全学校週5日制の導入と教育内容の厳選が行われました。
小学校 |
【教科】 【教科以外】 |
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中学校 |
【必修教科】 【選択教科】 【教科以外】 |
高等学校 |
【普通教育】 【専門教育】 【教科以外】 |
2002年(平成14年)4月 | 実施(小学校) |
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2002年(平成14年) | 実施(中学校) |
2003年(平成15年) | 実施(高等学校) |
今回の改訂では、「少年犯罪の凶悪化」や将来像を描けない子どもの増加を受けて、心の教育を重視し、これまでの「ゆとり」路線をさらに推し進め、授業時数も大幅に削減、それに伴って教える内容も3割削減して、今度こそ学校に「ゆとり」をもたらそうとしました。
そういった本格的な削減内容の学習指導要領の実施が近づいてくると、
「円周率は3.14ではなく3になる」
「台形の公式が教科書から消える」
といった、広告などのあおりもあって、学力低下の不安感が高まっていき、導入目前になって「学力低下」論争へと発展して行くことになりました。
この論争は、最終的には「ゆとり」教育は学力低下になるということにされ、文科省は緊急アピール「学びのすすめ」を出し、そこで「確かな学力の向上」が訴えられ、また「学力低下」を危惧する保護者に対しても、学力が低下しないように最大限の努力をする旨が宣言されました。そして学習指導要領は予定通り実施されました。
「生きる力」をはぐくむという理念のもと、知識や技能の習得とともに思考力・判断力・表現力などの育成を重視していきました。また、言語や理数の力などをはぐくむための教育内容を充実させ、授業時数も増加させていきました。
授業時数の増加
指導内容の充実
小学校外国語活動の導入
①授業の時間数が増加
②学ぶ内容が充実
小学校 |
【教科】 【教科以外】 |
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中学校 |
【教科】 【教科以外】 |
高等学校 |
【共通教科】 【専門教科】 【教科以外】 |
2011年(平成23年)4月 | 実施(小学校) |
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2012年(平成24年) | 実施(中学校) |
2013年(平成25年) | 実施(高等学校) |
結局、「ゆとり」教育によって学力が低下しているかどうかはわからないままでした。
この改訂では、小学校の授業時間はは1割増加、小学校5、6年では新たに外国語活動が新設されました。一方、ゆとり教育の目玉だった総合的な学習の時間は、週一時間減らされました。
これまで大切にしてきた,子供たちに「生きる力」を育む,という目標は変得ることなく、社会の変化を見据え,新たな学びへと進化を目指します。
三つの柱を育む
アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善
カリキュラム・マネジメントの推進
小学校外国語科の新設等
①何ができるようになるの?(資質・能力の三つの柱)
・学びに向かう力、人間性など
・知識及び技能
・思考力、判断力、表現力など
②どのように学ぶの?(主体的・ 対話的で深い学び)
主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点から「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視して授業を改善します。
③何を学ぶの?
小学校
外国語(5,6年)
特別の教科 道徳
中学校
特別の教科 道徳
高等学校
理数
総合的な探究の時間
④新たに取り組むこと,これからも重視することは?
プログラミング教育
外国語教育
道徳教育
言語能力の育成
理数教育
伝統や文化に関する教育
主権者教育
消費者教育
特別支援教育
小学校 |
【教科】 【特別の教科】 【教科以外】 |
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中学校 |
【教科】 【特別の教科】 【教科以外】 |
高等学校 |
【共通教科】 【専門教科】 【教科以外】 |
2020年(令和2年)4月 | 実施(小学校) |
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2021年(令和3年)4月 | 実施(中学校) |
2022年(令和4年)4月 | 実施(高等学校) |
2022年(令和4年)現在、高校の新しい学習指導要領が4月から全面実施となりました。
これで全ての教育段階で新しい学習指導要領がスタートを切ったことになります。
しかし、高校の全面実施の前に、内閣府の「教育・人材育成ワーキンググループ」では、次の改定の動きを見せているようです。
これは、通例よりも早いそうです。
恐らく、時代の変化が加速している為だといわれています。
内閣府のホームページでは、「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」の概要を見ることができます。
そこでは、STEAM教育や多様性など、Society 5.0時代の教育についてのプランを見ることができます。
加速する世界の中で、教育がどのように変化していくのか。
注目していく必要があります。
新しい学習指導要領については、下記ページで詳しく解説しています。
学習指導要領の歴史について解説しました。
1947年に刊行されて、時代に合わせて計8回も改訂されていました。
こうして見て行くと、日本の教育は「ゆとり教育」と「詰め込み教育」を行ったり来たりしていることがわかります。
アメリカ型の「ゆとり」教育でスタートしたと思ったら、もっと知識が必要なのではということで、日本型の「詰め込み」教育へ。「詰め込み」教育が社会問題を産んだら、「ゆとり」教育へ。「ゆとり」教育は学力低下するのではないかということになったら「脱ゆとり」へ。
世の中がより複雑に変化して行く中で、8回目の全面改訂の後はどのような流れになって行くのでしょうか。